• 2015/9 乃村 嘉裕

製造業と3Dプリント

3Dプリント万能というイメージは全く実態と異なる。
使える材料は限られているし、色々高いし、制約だらけである。

しかも、これまでの材料、設計要件、製造フロー、品質要求を維持したまま、
どこか単一の工程(たとえば、型による成形)を3Dプリントに置き替えた場合、
品質、コスト、納期の全てが良くなる可能性は、ほぼない。

もしそうであれば、もっと早く世の中に普及している。

置き換えがうまくいかない理由の一つとしては、
製品設計と製造技術のマッチングの問題である。

たとえば、型による成形(金型あるいは鋳造など)のコンセプトは、
材料を溶かして反転形状を持つ型に押し込んで冷やして製品を作る、
という非常に完成度の高いシンプルさを持っている。

一方で、3Dプリント技術のコンセプトは、
材料を製品の断面形状に溶かして積み上げて製品を作る、
というもので、積み上げる間に加工をするとか色々なオプションがあるが、
本質的には、それに尽きる。
技術的にもまだ未成熟であるのは、言うまでもない。

だから、
『型成形前提の製品設計+それを最適実現できるよう発展してきた技術』
という組み合わせを
『型成形前提の製品設計+3Dプリント』
で置き換えようとしたら、メリットとデメリットのどちらが大きいかは明らかである。

ただ、型による成形はコンセプトこそシンプルだが、
様々な技術要素が山ほど詰め込まれているため、
3Dプリントがその一部として使われる可能性はあるし、
現にそのように使われている。
金属造形で作った金型のコマなどは典型的である。

しかし、こういう話を引き合いに、
3Dプリントでは、最終製品は作れない、量産には使えない、
というのは、そこそこ正しいが、あまり正しくない。

造形技術によりもたらされるものは、
製品設計要件ないし、工程設計要件の緩和である。

従来の設計要件や製造フローを変えることも厭わない、というのであれば、
3Dプリントがピッタリで、劇的にQCDが改善される場合がある。

しかも、そういうケースは世の中にそれなりにある、ように見受けられる。

あるいは、そもそも今迄になかったものを作ろうとする場合もそうである。
『3Dプリント前提の製品設計+3Dプリント』であれば、当然QCDは満たされる。

ほとんどの企業では、型成形で起きたような、
技術発展と設計要件・製造フロー定義が相互にフィードバックするサイクルに入っていないが、
一部の領域では、その取り組みが始まっている。

わかりやすい例としては、歯の補綴物の製作がある。

歯医者で歯形を型取りし、その型を元に歯科技工所で補綴物を製作し、再度歯医者で調整しながら取り付ける、
という製造フローだったのが、
スキャナで歯型を3Dデータとして測定し、そのデータを編集し、3Dプリントで製作する、
という製造フローが可能になり、欧米で普及が進んでいる。

そして、スキャナ、データ編集ソフト、3Dプリントがそれぞれ相互にフィードバックするサイクルに入っている。

このような動きは、他の業界でも、もちろん始まっている。

3Dプリントは、使える工法が一つ増えた、という程度で落ち着くかもしれないし、
製造業の変革に繋がるかもしれない。

まだ、どこまで進むかはわかっていないし、
ユーザーもメーカーも手さぐりしながら進んでいる段階である。

そうではあるが、工法が一つ増えた、という程度よりは先まで、
それもかなり先まで射程がある、と当社では考えている。

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